海棲昆虫。

都市伝説から、音楽、文芸。

【石川啄木の厳選短歌集3】

 

今回も、個人的に好きな石川啄木の短歌を紹介していきます。

 

 

 

山に居て
海の彼方の潮騒
聞くとしもなく君を思いぬ

 

 

ちなみに、文末の助動詞【〜ぬ】は、その動詞の完了形(〜てしまった、〜てしまう、〜た)を表します。

 

助動詞【ぬ】には、さらに、もう一つ使い方があります。それは、動詞の連体形の【ぬ】です。連体形とは、名詞の前にくるものです。

例えば、「食べぬ人」という例文の場合は、助動詞【ぬ】が名詞の前にきているので、これは連体形になります。連体形は、その動詞の打ち消しを意味するので、「食べない人」ということですね。

なので、助動詞【ぬ】が、文末にきているのか、それとも名詞の前にきているのかで、前者は完了形、後者は動詞の打ち消しと見分けることができます。

 

 

君を見て我は怖れぬ
我を見て君は笑ひぬ
その夕暮れに

 

 

そことなく
蜜柑の皮の焼くるごとき
にほひ残りき君去りしのち

 

 

ゆるやかに煙草の煙
天井に渦を巻けるを
眺めてありき

 

 

どこやらに杭打つ音し
大桶をころがす音し
夕となりぬ

 

 

手にためし
雪の溶くるが心地よく
我が寝飽きたる心には沁む

 

 

それもよし
これもよしとてある人の
その気軽さを欲しくなりたり

 

 

非凡なる人の如くにふるまえる
昨日の我を
笑ふ悲しみ

 

 

今日もまた
捨てどころなき心をば
捨てむと家を出てにけるかな

 

 

白き皿拭きては棚に
重ねゐる
酒場の隅のかなしき女

 

 

霙(みぞれ)ふる
石狩の野の汽車に
読みしツルゲエネフの物語かな

 

ちなみに、上の首で出てくる、ツルゲエネフとは、19世紀のロシアを代表する小説家です。

本名を、イワンツルゲーネフ

 

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イワン・ツルゲーネフ - Wikipedia

 

上の啄木の首では、霙が降る野を進んでいくという描写に、ツルゲーネフの物語という言葉が出てくることによって、19世紀当時のロシアの荒涼とした大地をも想像させる味わい深い首だと思います。

 

 

 

 

 

最後に一首!

 

しつとりと
水を吸ひたる海綿の
重さに似たる心地覚ゆる